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事例紹介

VR技術を活かした研修医等への新たな臨床体験の提供

株式会社ビーライズ

 (1)背景・経緯

ビーライズ本社

ビーライズは広島市にあるXRシステム・デジタルコンテンツ開発企業である。2012年に広告代理店や映像プロダクションから3DCG制作を請け負う会社として2人で創業し、テレビCMやマンションの完成予想図の3DCG制作などを手がけてきた。3Dでの映像表現や3D空間の活用に可能性を感じていた同社は、2014年頃から3DCGとプログラムを組み合わせ、シーズ先行的にVRの技術開発を進めていたが、「VR元年」と言われる2016年頃からVRに対する社会的な認知・関心が高まり、徐々にVR開発の仕事が舞い込むようになった。最初に携わったのは地元企業の安全研修用のVRコンテンツの制作で、現場のリアル感や教育面の効果が好評を得て、さまざまな領域・用途に活用できる手ごたえを持つようになった。同時に、実績が評判を呼ぶ形で顧客側からさまざまな開発打診の声がかかるようになり、5~6年で100件以上のVRシステムの開発を手がけ、現在では売上全体の6割を占める事業の柱となっている。

こうしたVRシステム開発の領域の一つとして、医療・ヘルスケア向けがある。その一つが、救急医療教育用VRシステム「EVR」である。3DCGで救急医療の現場をリアルに再現し、患者の生体情報や制限時間の設定のもと、適切な検査・処置手順を学ぶことができ、模擬的な触診や視診も可能となっている。また、社員・職員のメンタルヘルス向上をサポートするシステムとして、VRゴーグルを装着して瞑想を行う「マインドフルネスVR」の開発も進めている。

(2)事業コンセプト

救急医療教育用VRシステム「EVR」の3D画面

救急医療教育用VRシステム「EVR」がターゲットとするのは、実務経験の浅い研修医や医学生などである。臨床現場での経験を積む前に、VRの特徴を活かしたリアルな現場体験や能動的な処置体験を経験することで、以降で行う専門的なトレーニングの実施効果を高めることが想定される提供価値である。こうしたVRでしか提供し得ない“すき間”のニーズを捉え、適切な形で届けることがビーライズの取るべき事業戦略と言える。

一般に、医療教育・トレーニングで使用されるシミュレーターには、難易度の高い腹腔鏡や内視鏡等を使った処置にターゲットを絞り、デジタルにしろアナログにしろ、対象部位をモデル化して効果的に手技のトレーニングを行えるようにしたものが多い。ビーライズの医療教育用VRは、これらのシミュレーターとはポジションが異なる製品であり、独自の価値を深めながら、医療者に認知・理解してもらうことが重要になる。

(3)実施方策・活用資源

こうした「EVR」を始めとする医療・ヘルスケア領域でのVRシステム開発の推進を支える方策・資源としては、以下の4つが挙げられる。

① 広島県・中国地域内の医工連携資源の有効活用

ビーライズでは、医療・ヘルスケア関連のVRシステムの開発にあたって、広島県内の医工連携資源を有効活用した。救急医療教育用VRシステム「EVR」の開発では、ひろしま産業振興機構のコーディネーターの仲介で出会ったJA広島総合病院救急科の医師から、システムに求める機能や要件を聞き取り、確認・評価をもらいながら開発を進めた。3DCGによって再現している内装や環境音も、同病院の救急治療室を参考に作成している。また、開発資金の面では、2019年度に採択された広島県の「中小ベンチャー企業チャレンジ応援事業助成金」が大きな役割を果たした。さらに、「EVR」の機能強化や販路開拓にあたっては、中国経済産業局の支援事業のもと、中国地域内の基幹病院や大手医療機器ディーラーとの意見交換を行い、臨床や販売の視点からさまざまなアドバイスを得た。

途中、コロナ禍で開発検討を中断せざるを得なかった時期はあったものの、ニーズの発掘から開発、販路開拓に至るまで、比較的シームレスにサポートが得られたことで、ゼロからの事業の立ち上げが可能になったと言える。

② 社会に役立つものをつくる

ビーライズの医療・ヘルスケア事業を駆動するエンジンの役割を果たしているのが「VRで社会に役立つものをつくりたい」という同社の理念である。VRが社会的に認知されるようになって5~6年が経つが、比較的新しい技術であるが故に、市場としては収益を確保しやすいエンターテイメント系が先行しているのが現状であり、大都市圏の関連企業の多くはこれらの市場をターゲットとしている。こうした中、地方のベンチャー企業がVR技術で医療・ヘルスケア分野での事業化を図るのは、大きなチャレンジとも言える。

開発にあたっては、基本的に先行する製品がないため、顧客と事前に製品イメージを共有することが難しく、仕様を固めにくいことがボトルネックとなる。また、VRにとって重要な「没入感」は、3DCGのリアリティを高めることで得られるが、比例してデータ容量も大きくなるため、運用しづらくなる。リアリティと扱いやすさ、品質とコストの間の最適なバランスを見出すこともVR開発において重要なポイントとなる。こうした開発上のノウハウを蓄えつつあるのもビーライズの強みと言える。

③ 医療の専門知識を有する人材の採用

医療・ヘルスケア領域への事業展開を加速させるため、ビーライズでは理学療法士の資格を持つ人材を採用し、担当ディレクターとして配置している。理学療法士は病気やけがで運動機能が低下した人に対して機能回復を図るリハビリの専門家であるが、同ディレクターは大学で精神科領域での理学療法について研究し、学生を対象とした「2019年度キャンパスベンチャーグランプリ中国大会」で最優秀賞を受賞し、それが縁でビーライズに入社した。その時の受賞テーマが、メンタルヘルスの普及に向けたVRによるマインドフルネスの事業化であり、現在、ビーライズの事業テーマとして引き継がれている。

VRを用いた事業テーマの受賞とその提案者との出会いは、ビーライズにとって偶然の産物とも言えるが、同社のような技術者集団が医療・ヘルスケア領域への展開を加速させる上で、重要なトリガー役を果たした。同社では、今後もこうした医療の知識を持ち、新たなサービスを生み出していける人材の確保を進めていく意向である。

④「教育ソリューション」と「ヘルスケアソリューション」の2軸での事業展開へ

専用ゴーグル、コントローラーによるVR操作の様子

ビーライズでは、VRの特徴を活かし、医療・ヘルスケア領域において、「教育ソリューション」と「ヘルスケアソリューション」の2軸での事業展開を構想している。直近では救急医療向けに開発したEVRを他の診療領域に横展開することが想定されているが、中長期的なスパンで見ても、VRには医療教育に貢献できる部分がまだまだ多いと考えている。医療の現場では、コロナ禍を背景に「リアルな体験」に要するコストやリスクが高まる傾向にある。医療ミスや医療事故の回避、解剖学の知識習得などにおいて、リアルな体験を補完し、教育・トレーニングの効果を向上させるVRの提供価値はますます高まると見込まれる。メタバースなどのバーチャル空間を共有する技術も、これらを後押しすると考えられる。

また、デバイスの進化を踏まえ、VRによって脳や視覚に働きかけて、よい影響や効果を引き出すような「ヘルスケアソリューション」への展開も考えられている。メンタルヘルスを目的としたマインドフルネス事業はその一環として位置付けられる。そのほかにも、視覚障害を補助する、動体視力を上げる、体を動かす、精神を安定させるなどの面で、VRの活用効果が見込まれている。こうした領域では、大学等の知見を活かすことが不可欠であり、これらに向けた情報発信が重要な鍵を握る。

(4)収益確保のポイント・目標

医療・ヘルスケア領域での収益モデルの構築は、ビーライズにとって今後の重要な課題の一つである。受託開発が大部分を占める企業向けに対し、医療・ヘルスケア領域では自社製品を主体とした事業展開が見込まれるため、適切な価格設定も必要となる。また、導入後も継続的にシステム改修・機能追加を進め、その費用を適切に徴収していく仕組みを提案・実現していくことも必要である。

ビーライズでは、VRを始めとするデジタル技術を活用し、非接触のバーチャルイベント、仮想空間での次世代トレーニング、体験コンテンツなど「デジタルならではの体験」を開発・実装していくことで、社会や企業の変革を促すことを目指している。その中核として、医療・ヘルスケア領域を位置付け、事業の柱に育てていく意向である。