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事例紹介

ものづくり技術・デジタル技術をベースとした顧客目線からの新たな価値提案

有限会社広島ピーエス

(1)背景・目標

広島ピーエス社屋と宮原社長(中央)

広島ピーエスは、広島県東広島市福富町の山あいにある従業員数36名の中小ものづくり企業である。鍼灸師だった宮原社長の父が地元に仕事をつくっていくことを目指し、1990年に創業。当時は内職者やパートタイマーが仕事を分担していたため、パートサービス(PS)が社名の由来となっている。主に自動車部品の請負製造で事業を伸ばしてきたが、2000年代を境に自動車業界の構造変化が進み、2007年頃から事業転換を図ってきた。現在は、「搬送」をキーワードに、自動車部品向けの搬送容器(ラック、鉄枠台車、ダンプラ箱等)の製作、省人化・無人化搬送システムの開発・提供が事業の柱となっている。

医療分野には、コロナ禍をきっかけに2020年に参入した。翌年には医療機器製造業の許可も取得している。広島ピーエス顧問で、医業・経営コンサルタントであるNSコンサルタンツ仁科社長の仲介により、福山の医療機器ディーラー・五洋医療器の小坂社長と出会い、同社を通じてマスク、ガウン、飛沫防止パネル、消毒液のキックディスペンサーを開発・販売した。医療分野について、広島ピーエスは自社の設備や技術を有効活用して価値提供が可能な分野と捉えており、農業、半導体、自動車部品などと並んで、事業展開を進めていく方針である。

(2)事業コンセプト

医療分野に限らず、広島ピーエスが心がけているのは、「自社が保有する技術や設備を有効活用して、積極的な課題解決の提案を行うこと」である。このものづくり技術を活かした提案力とそれに付随する行動力が、新たな価値創出を可能にしている。
医工連携の現場では、医療機関のニーズに対し、自社の既存の製品・システムを当てはめるか、表面的な要望をそのまま製品仕様に落とし込もうとする下請け型の対応が多く見られる。これらのタイプでは、医療機関の本質的な課題解決や継続的な事業展開につなげることは難しい。広島ピーエスは、医療機関のニーズをものづくり企業の視点で解釈し、顧客の目線から新たな価値提案を行う姿勢を強く持っている。

例えば、院内の工作室で看護師や検査技師が使用する医療用カートを自作していた病院が、カートの改良・製造を企業に求めてきた案件では、他の企業が自社の既存製品を提案したり、病院の要望をそのまま図面に反映させようとしたのに対し、広島ピーエスでは、院内の工作室が持つノウハウを病院の貴重な資産として捉え、それらをデジタル化して保有・活用するとともに、他の医療補助具も含めてシリーズ化し、パーツの組み合わせで修理にも柔軟に対応できるような新たな仕組みづくりを提案した。こうした本質的な課題を解決しようとする姿勢は、医療機関側からも評価されている。

(3)実施方策・活用資源

広島ピーエスでのこうした医療分野への事業展開を支える方策・資源としては、以下の3つが挙げられる。

① 医療機器ディーラーとの相互提携

五洋医療器

広島ピーエスが医療分野に参入するきっかけを提供した福山の医療機器ディーラー・五洋医療器とは業務提携を締結し、その後も広島ピーエスの事業展開を支える重要な戦略パートナーとなっている。五洋医療器は広島・岡山を地盤とした従業員数100名規模の中堅ディーラーで、衛生材料から大型の医療機器まで幅広く取り扱っている。

広島ピーエスが同社に求めているのは、商品開発等でのアドバイスと医療機関への販売対応である。その点で、医療現場を熟知し、医療機関の具体的な要望・ニーズをはっきりと分かりやすく伝えてくれ、機動力の高い同社の対応に高い信頼を置いている。また、医療機関と意見交換を行うようなマッチング面談の場においても同社が同席し、必要に応じて相互のやり取りの仲介や補足を行っていることも、目を引く対応である。こうした専門ディーラーのきめ細かなサポートが、ものづくり企業である広島ピーエスの医療分野へのスムースな事業展開を支えている。

一方、開発製品や商材の中には、飛沫防止パネルや消毒液ディスペンサーなど、非医療部門への販売が可能なものもあり、これらの民間企業等への販売においては、広島ピーエスが取引先等のネットワークを活かし、販売を推進する役割を担っている。五洋医療器にとっては、非医療部門へ販売機会を広げるルートを確保することになり、そういった意味で、両社の提携は相互補完的なものとなっている。

② 3D-CAD技術の有効活用

広島ピーエスの提案力を技術的な面で支えているのが3D-CAD技術である。主力の自動車部品向けの搬送容器の製作などで使用している3D-CADソフトウェア「CATIA」や「Solid Works」を医療分野でも有効活用している。「CATIA」はフランスの大手ソフトウェア企業が開発したハイエンド3D-CADソフトで、もともとは航空機の設計用に開発され、現在は主に国内外の自動車メーカーや重機メーカーなど、複雑で大規模なアセンブリの設計・開発を必要とする企業等で使用されている。高価で使いこなしが難しく、中小企業で活用している企業はほとんど見られないが、同社では開発部のメンバー全員がこのソフトを使用できる状況にある。

詳細な設計情報がなくても、対象物の画像等の生データがあれば、コンピュータ上で3次元データによる再現が可能で、習熟すれば顧客との間で試作レスによるやり取りができるようになる。同社では、3D-CAD上の3次元データと、それをもとに製造した試作品を何度も擦り合わせてきたことで、実際に試作品で確認しなくても、意図した設計をデジタル情報だけで完結できるノウハウが蓄積されている。もちろん、3Dプリンタやサンプルカッターを使ってスピーディーに現物に置き換えることもできる。医工連携の現場においても、こうした技術・ノウハウをフルに活用することで、ニーズの具現化に要する期間・コストを大幅に短縮している。

③ 全社的な課題解決・対応力の養成

会社方針やルールの掲示
やる気を高める横断幕

中小ものづくり企業では、対外的な営業・提案活動はともすれば社長個人に依存する度合いが高くなりがちであるが、広島ピーエスでは、全社的に課題解決・対応力を高めることを会社方針として掲げ、底上げを図っている。まず、宮原社長が会社としての基本理念・方針を明確にし、決算報告会や事業計画、年度方針、横断幕やYouTubeなど、さまざまな機会・方法で社員と共有している。人材採用の面でも、「思いやり」「賢さ」「情熱」の行動指針に照らして、それに合致する人材の採用を図っている。また、チームでの現場改善に関する活動提案や合議制による取組検討も、全社的な意識の共有・底上げに貢献している。これらを通じて、全社的に一定の課題解決・提案力を保持し、宮原社長に万が一のことが起きた場合でも、社員が同じ方向を向いて対応できる体制を整えている。

(4)収益確保のポイント・目標

広島ピーエスが医療関連事業で収益を確保していくためには、3D-CAD技術や既存のものづくり技術に基づいた低コスト対応力と、医療機器ディーラーとの相互連携や全社的な課題解決・対応力に支えられた高付加価値提案をいかにうまく組み合わせていくかがポイントになる。
また、医療機関のニーズに基づいた開発を進める場合、開発費をどう確保するかも重要な課題となる。ニーズの個別性・特有性が高い場合は、当該医療機関を直接の発注者として開発費も徴収することが可能と考えられるが、一般性・汎用性の高いニーズの場合は、企業側が事業主体となって開発費を負担する必要が出てくる。外部の補助金の有効活用を含め、医療機関側の理解・賛同が得られる事業スキームを検討・提示していくことが求められる。
広島ピーエスでは、医療機関ときちんと向き合い、業界の事情を把握・理解しながら、企業としての対応力を高めていく方針である。