「医の芽ネット」は医療・ヘルスケア分野に関心のある企業・機関に対して
新たな事業創出の機会やサポートを提供する「医工連携の地域プラットフォーム」です。

事例紹介

メンタル・ヘルスケアを支えるICTソリューションの提供

株式会社レスコ

(1)背景・経緯

レスコのプロダクトライン

レスコは広島市にある精神科医療分野を対象とした電子カルテシステム開発企業である。1993年に福岡市内で創業した前身のベータソフトが、2000年に精神科病院向け電子カルテシステムの開発に着手し、2003年に現在の主力製品の一つである「Alpha」を上市したのが、同社と精神科医療の関係の始まりである。「Alpha」は精神科医療電子カルテの草分け的な存在で、順調に販売を伸ばしていたが、社内的な問題でベータソフトは経営危機に陥り、2009年に営業顧問として招かれたのが現在の藤川社長である。藤川社長は、前職の大手システムベンダーのヘルスケア事業で培った販売ネットワークなどを活かして事業を立て直した後、前社長から事業を引き取って生まれ故郷の広島に本社を移転させ、社名も株式会社レスコに変更して、新たな出発を図った。

具体的には、主力のパッケージシステムである「Alpha」と並ぶ新たなクラウド型のシステム群として「Waroku」シリーズを開発し、精神科病院向けの「Warokuホスピタルカルテ」、精神科診療所向けの「Warokuクリニックカルテ」、訪問看護ステーション向けの「Waroku訪問介護」などのシステムを次々と開発・投入した。これらは、社会環境の変化を踏まえた、精神科医療に関わる施設・機関への新たな提案である。精神科医療の領域は、医療分野の中でも閉鎖性が強く、デジタル化やデータ活用も立ち遅れているが、レスコの提案は徐々に浸透し、「Waroku」シリーズは2021年度末現在111施設に導入されており、来年度の売上ではレスコ全体の3割を見込んでいる。

(2)事業コンセプト

レスコでは、「Waroku」シリーズを含め、「心の健康に対して、ICTソリューションを提供する」ことを事業のコンセプトとしている。レスコがこれまでシステム提供のターゲットとしてきたのは、主に精神科医療に関わる病院、クリニック、訪問看護ステーションなどであり、電子カルテの提供を通じて精神科医療の業務改善・経営変革を支えてきた。

一方で、心の健康の問題はますます多様化し、どこまでが健常でどこからが疾患なのかといった線引きがしにくくなってきている。そうした中で、「精神疾患予防」の重要性が高まり、行政機関やNPO法人などを含め、対象となる活動主体の範囲が広がっている。地域包括ケアに関わるこれらの多用な施設・機関に対して、これまでの精神疾患の診療を支援する情報システムから一歩踏み出し、ICTシステムを通じて「地域住民の目線からメンタル・ヘルスケアを支えること」、これが新たにレスコの目指している提供価値である。

(3)実施方策・活用資源

こうしたレスコの事業展開を支える方策・資源としては、以下の4つが挙げられる。

① 電子カルテの標準化、クラウド型サービスへの移行

医療機関における診療記録をコンピュータ上で編集・管理する電子カルテシステムは、医療機関の情報システムの中核に位置付けられるが、日本の電子カルテシステムは院内にサーバーを設置するオンプレミス型が主流で、接続仕様がまちまちで統一されておらず、一度導入すると他社システムへの移行も容易ではないベンダーロックインが顕著なシステムとなっている。これは精神科の医療機関においても同様である。こうしたクローズドなシステムは、それぞれの病院内の業務フローに合わせて個別最適化しやすい面があるものの、システムの維持・更新にかかる費用がかさみ、情報共有も容易ではない。

これに対し、レスコは電子カルテの標準化に積極的に対応するとともに、「Waroku」シリーズを中心にクラウド型サービスへの移行を推進している。これらは、地域の医療機関間で診療情報を共有し、ひいては患者自身が診療情報を把握・管理するうえで不可欠の取り組みである。レスコでは、強みとするクラウドでの効率的なアプリケーション開発技術をベースに、標準化・クラウド化への対応を進めている。

②「地域カルテ」の考え方に基づいた電子カルテプラットフォームの構築

レスコが重視する「精神疾患予防」の考え方に基づいたメンタル領域の地域包括ケアへの対応を図る上で、カギとなるのが地域レベルでの包括的なカルテ情報の共有である。レスコではこれを「地域カルテ」という考え方で捉えている。

この「地域カルテ」の重要なパーツとして内包されるのが「成育カルテ」である。精神疾患の予防・治療においては、生活困窮や引きこもりなどの成育環境情報の正確で詳細な把握・共有が重要であるが、これまで関係するNPO法人や支援団体、医療機関では、これらの情報を紙ベースで個々に記録・運用してきた。これに対し、これまで蓄積してきた電子カルテのノウハウをベースに、新たにクラウドベースで関係者間の情報連携が可能なシステムとしてレスコが提案しているのが「成育カルテ」の枠組みであり、2021年より「Warokuパブリックヘルス」として試験的に運用を開始している。

Warokuで描く「地域カルテ」のイメージ

「地域カルテ」は、これまでレスコが電子カルテシステムを提供してきた精神科病院、診療所、訪問看護ステーションに加えて、こうした生活困窮者支援に携わるNPO法人や支援団体などのカルテ情報をつなげられる情報ネットワークであり、オープンな接続インターフェイスを備えた電子カルテ共通基盤(プラットフォーム)の上に、さまざまな電子カルテ等の情報システムが連結される形で実装される。これがレスコの「Warokuプラットフォーム」構想である。

レスコが提供しているクラウド型の電子カルテシステムは、今後すべてこの「Warokuプラットフォーム」に接続される予定である。また、他社にもこの電子カルテ共通基盤を開放し、アプリケーション開発をレスコがサポートすることで、新たなサービス事業を創出していく意向である。これらを地域に実装することで、地域包括ケアを支える「地域カルテ」を実現し、新たな電子カルテビジネスの創出を図っていくことが、レスコの考える事業戦略である。

「Warokuプラットフォーム」構想

③ 精神科医療に対する理解・姿勢

レスコでは、製品自体の競争力もさることながら、精神科医療に対する理解やアプローチの姿勢が顧客に評価されていることが、精神科領域でナンバーワンのシェアを維持している要因の一つと考えている。前身のベータソフト時代の経営危機を乗り越えてきたのも、販売代理店網の再構築に加えて、地道な営業姿勢がベースとなっている。営業・サポートチームが顧客との関係を密に取りながら、精神科医療に対する認識や理解を深め、情報共有の必要性を追求することで、会社に対する信頼やロイヤリティを保持してきた。

また、こうした基礎的な営業力を土台に、コロナ時代に対応した新しい営業スタイルの構築にも取り組んでいる。運用上の悩みなどの生の声を聞く機会は保持しつつ、製品の説明やデモなどでは動画コンテンツを有効活用した、熟練に依存しないオンライン営業の仕組みづくりを模索している。これらを在宅勤務を含めた柔軟な働き方や生産性の向上につなげていく意向である。

④ ソフトウェア系ファンドグループへの参画

レスコは、2018年にカナダに本社のあるConstellation Software,Inc.(CSI)グループの傘下に加わった。CSIは「ミッション・クリティカルな(業務に欠かすことのできない)」ソフトウェアビジネスに特化した投資を行うファンド企業であり、短期的な投資は一切行わず、一貫して現行経営陣に経営を一任するハンズオフ型のスタイルで企業価値の向上を図っている。レスコは精神科領域において電子カルテという社会インフラを供給する企業としてこのCSIに認知され、日本の医療系ベンチャーとして初めてグループの一員となった。

当初期待していた開発資金の確保には結びつかなかったものの、海外のソフトウェアベンダーの手法も導入しながら、レガシーシステムである「Alpha」の収益モデルの改革や顧客満足向上に向けた取り組み、組織変革などで一定の成果を上げ、以降の新たな電子カルテプラットフォーム構築に向けた経営の土台づくりに貢献した。

(5)収益確保のポイント・目標

レスコでは、「Warokuプラットフォーム」を中心としたビジネスモデルの変革を進める中で、継続的な価値提供により、長期的な収益確保を目指すリカーリングビジネスへの転換を図っている。具体的には、パッケージシステムである「Alpha」の保守・メンテナンス料のほか、クラウドシステムである「Waroku」シリーズのサービス使用料などがこれに含まれる。2021年時点で50%弱を占めるこれらのリカーリング総売上を、5年後の2026年には70%強にまで高めることを目指している。そのためにも、上記のような取り組み、特に「Warokuプラットフォーム」を基盤としたクラウド型サービスの創出・育成が重要なポイントとなる。

レスコでは、メンタル・ヘルスケアを取り巻く環境変化に柔軟に対応しながら、今後ともICTソリューションの提供価値を高めていく意向である。