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事例紹介

センサー・ネットワーク技術を活かした介護IoTプラットフォームの構築

東洋電装株式会社

(1)背景・経緯

東洋電装は1973年に配電および自動制御盤の設計・製造から事業をスタートし、以来、主に高速道路や鉄道、上下水道やダムなど、社会インフラを支える機器向けに製品を供給してきた制御盤製造・システム開発企業である。制御技術や通信・ネットワーク技術に強みを持ち、これらを基盤に、さまざまな領域でシステムの開発提案・運用を手がけている。そうしたシステム開発事業の一つに位置づけられるのが、介護医療分野での「介護IoT」事業である。

東洋電装の介護IoTネットワークのイメージ

同社が介護医療分野に参入したのは、知り合いの介護施設からの要望で、2015年にマットセンサー(離床センサー)を開発したことがきっかけである。有線式がほとんどだったセンサーを無線化して使い勝手を高めたことで好評を得た。その後、親交のある企業から睡眠センサー「まもる~の」の事業部門を買い取り、2019年頃から本格的に介護分野での事業を開始した。

(2)事業コンセプト

東洋電装の介護IoT事業は、入所系介護施設を主なターゲットとしている。介護施設の現場では、労働人口の減少と高齢化による介護人口の増加を背景に、働き手の不足が構造的な課題となっており、海外からの介護人材の受け入れ拡大とともに、ICTを活用した介護労働の補完が期待されている。こうしたことから、介護IoTは今後も市場拡大が見込まれる領域であり、東洋電装では、介護施設とそこで働く介護従事者に対して、ICTを活用した労働負担の軽減、介護サービスの質的な向上といった価値を提供している。

東洋電装が製品・サービスとして提供しているのは、wifiネットワークで連結した介護業務補助製品・システム群と、その運用サポートである。そうした製品・システム群には、他社が開発・提供しているものも含まれている。個々の製品・デバイスを供給する中小企業は数多いが、サポートサービスを含めたトータルで事業展開している企業はほとんど見られない。これまで、国の施策・支援のもと、先進的な機能を実装した介護ロボットなども提供されてきたが、その多くは業務の運用状況やICTリテラシーの実態に沿うことができず、現場に浸透していない。東洋電装では、ネットワーク構築から端末の販売・リース、保守・サポートまでワンストップで提供することで、現場の状況・実態に合わせた価値提供を実現している。

 

(3)実施方策・活用資源

こうした東洋電装の介護IoT事業の推進を支える方策・資源としては、以下の4つが挙げられる。

①介護SIerとしてのシステム構築・ソリューション提供

介護IoT事業における東洋電装の特徴は、「介護SIer(システムインテグレーター)」としての独自性にある。そのベースとなっているのが、高速道路等の社会インフラ向け事業で培ってきた情報ネットワークの構築技術である。

東洋電装が本格的にネットワーク構築に取り組み始めた4年前当時、施設内にwifiネットワークを整備している介護施設はほとんどなく、離床センサー等の機器は有線でつながれていた。そうした施設に対し、wifiネットワークの設置工事から請け負うことで、離床センサーや居室環境センサー、ナースコール、介護記録システム等が相互にインターネット接続されるIoTシステムとして構築し、トータルで業務効率化の提案が可能であるのが東洋電装の大きな強みとなっている。

こうした事業展開は、まさに介護領域でのシステムインテグレーター(介護SIer)と言うべきものであり、他の設備・機器系の大手メーカーとは異なる独自の事業ポジションの確保につながっている。

②キーデバイスの自社開発

睡眠センサー「まもる~の」

東洋電装の介護IoT事業を支えているもう一つの技術的な特徴は、中核となる睡眠見守りシステムの自社開発である。これは、ベッド下に設置した自社開発の高感度エアバッグセンサーから、呼吸や心拍、体動による圧力変動を検知し、独自のアルゴリズムで睡眠の深さを判定して、5段階表示で「睡眠の見える化」を実現するシステムである。入居者の睡眠状態の的確な把握は、介護施設の業務効率化において大きなウエイトを占める。競合他社にも同様の製品・システムが存在するが、これらと比べて、睡眠状態の検知・判定能力の高さや製品のサポート体制に強みを持っている。

東洋電装では、この睡眠センサーの開発企業を親交のある企業から買い取ることで、自社の介護IoT事業の中核部分を構築することができた。外部の技術・資源を見極め、柔軟に取り込む姿勢が実を結んだと言える。

③施設介護と在宅介護のシームレス化

在宅介護向けシステム「まもる~のSHIP」チラシ

医療・介護の領域では、病院・施設での集中的な対応から、在宅での治療・介護への分散化の流れが加速している。これらを技術面で支えているのが情報通信環境の高速化とIoTデバイスの進化である。東洋電装では、これまで施設介護で蓄積してきた強みを活かし、在宅介護にも横展開することで、両者をまたぐ介護IoTプラットフォームを構築して、施設と在宅での介護をシームレスに行うことができる環境を提供しようとしている。2021年の睡眠センサーのリニューアルを機に在宅介護分野に参入し、機器のUI(ユーザーインターフェイス)やプラットフォームを施設介護と統一させて、介護者や利用者が違和感なく移行できるようにしている。

一方、施設介護と在宅介護の間ではビジネスモデルが異なるため、これを新たに在宅介護向けに構築する必要がある。介護保険を用いた在宅介護においては、機器・サービス導入において、これらを調整するケアマネージャーや機器を提供するレンタル業者の意向が介在する。そのため、これらの仲介者のICTリテラシーの向上促進や関連団体を通じた啓発活動、業界特有の商流への対応が必要となる。また、在宅高齢者がユーザーとなるため、BtoC向けの営業・サポート体制の強化も重要な課題である。さらに、国の介護費抑制を背景に、卸販売を中心とした介護保険事業から保険外ビジネスへの展開も進みつつあり、付帯サービスの重要性が高まっているデイサービス施設等でのサービス向上・差別化ツールとして、介護IoTの採用を働きかけることも重要なテーマとなっている。

こうした課題に対応するため、東洋電装では2021年末に介護事業に取り組む子会社(ZIPCARE)を設立し、人員を50~100人規模に強化して、新たなビジネスモデルの構築に向けた体制強化を図っていく意向である。

④ユーザーインターフェイスの自社デザイン

東洋電装では、提供価値を効果的に発信・伝達する手段として、デザインにも力を入れており、社内に専門のデザインチームを持っている。このチームでは、ウェブページや製品案内チラシ等のデザインのほか、IoTシステムのUIやサインの制作・改良にも携わっている。

BtoC、特に高齢者がユーザーとなる介護IoTシステムにおいては、親しみやすく分かりやすいUIの設計は極めて重要である。また、統一感のある洗練されたデザインはシステムのブランド構築にも寄与する。デザインは社内のデザインチームが担当しており、他社のデザイン業務にも対応している。

(4)収益確保のポイント・目標

介護IoT事業における収益確保に向けては、「介護SIerとしてのシステム構築・ソリューション提供」と「キーデバイスの開発」が重要なポイントとなっており、「施設介護と在宅介護のシームレス化」によって事業のさらなる拡大を図っている。

介護IoT事業は、参入後の6年間で約100施設に対して3,000台の機器を納入し、祖業の制御盤事業、主力の高速道路システム事業、ソリューション提案を行うIoTシステム事業などと並んで、同社の事業の柱の一つに成長した。今後は在宅を含めてその100倍の30万台の販売規模を目指し、事業の拡充を図る意向である。