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活動記録・ロコモ情報

ロコモティブシンドロームとは 〜江戸川病院慶友人工関節センター所長 泉田良一先生に聞く

ロコモ情報2020年03月26日

団塊の世代が後期高齢者になる「2025年問題」が目前となった現在。2030年には人口の30%以上が65歳以上という超高齢社会を迎える日本では、社会保障問題や労働力問題など様々な課題が山積している。人口の1/3を占めることになる高齢者が、自立した健康な生活を送ることができるかどうかは、日本の未来を支えるための重要な要素のひとつとなっている。
この課題に「運動器」の視点からいち早く取り組んでいるのが、公益社団法人日本整形外科学会の「ロコモ チャレンジ!」だ。ロコモ チャレンジ!推進協議会の前委員長で、社会福祉法人 仁生社 江戸川病院 慶友人工関節 センター長の泉田良一先生からお話を伺った。

江戸川病院慶友人工関節センター長 泉田 良一先生

ーーーまず、「ロコモ」について教えていただけますか。

2007年に日本整形外科学会が、来るべき超高齢社会においての運動器の健康寿命※の重要性を啓発するために提唱しました。運動器(locomotive organ)は、骨や関節、筋肉や神経で構成されますが、身体を随意に動かすための機能系であり、この運動器に障害が起こり、「立つ」や「歩く」といった移動能力が低下した状態を「ロコモティブシンドローム」(運動器症候群)と呼びます。これは世界に先駆けて日本で発案された概念です。その後、2010年にロコモチャレンジ推進協議会が設立され、現在は大江隆史委員長(NTT東日本関東病院 院長補佐・手術部長)のもと、ロコモティブシンドロームについての啓蒙活動を行っています。

ーーー「ロコモティブシンドローム」になるとどうなるのですか?

日本人の平均寿命と健康寿命※の間には、男性で9年、女性で13年の差があります。つまり、亡くなるまでに健康が損なわれ、場合によっては介護や支援が必要な期間が10年前後もあるのです。さらに、要介護・要支援になった原因の3割近くは、運動器の障害によるものです。ロコモティブシンドロームになると、自立して立ったり歩いたりすることが困難になり、さらに変形性関節症や、骨折を誘発する骨粗鬆症などの疾病を発症すると、将来的に要支援・要介護へとつながる可能性があります。
協議会では「立ち上がりテスト・2ステップテスト・ロコモ25チェック」という3つのパートから構成されている「ロコモ度テスト」を普及実践していますが、40cmの台から開眼で片脚起立する立ち上がりテストは、50代では既に女性の約半分、男性の5分の1がクリアすることができません。開眼片脚起立ができない、歩行速度が遅くなってきたというのは、バランスを崩しやすく転倒リスクが高まったり、将来要介護になりやすいことの予兆といえます。

日本整形外科学会公式 ロコモティブシンドローム予防啓発公式サイトより転載

ーーー「ロコモティブシンドローム」を防ぐには、どんなことが必要でしょう?

まず、「ロコモティブシンドローム」対策は、年をとってから始めればそれで良いというのは間違いで、若年からの予防が重要です。骨や筋肉量のピークは20代であり、その後どうしても肉体的に衰えていく中で、適度な運動や活動を行い、適切な栄養を摂取できるかが鍵となります
具体的な予防策として、バランス能力をつける片脚立ちや、下肢筋力を鍛えるスクワットを「ロコトレ」(ロコモーショントレーニング)として推奨していますが、もちろんそれだけで充分というわけではありません。ウォーキングやストレッチを生活に取り入れて、身体の柔軟性を高め、日常から十分な身体活動量をキープすることが大切です。また、いわゆるメタボも体重増加が腰や膝の負担となり、ロコモの原因となるので、食生活への配慮も必要です。運動、食のいずれにせよ、若いうちからの良い習慣付けが一番の予防になります。

ーーー自身の運動器の機能について測定してもらうには、どんな機会がありますか?

ロコモチャレンジ!推進協議会では、ロコモアドバイスドクター制度を設け、講習会やイベントなどを積極的に行っています。また3年前からは、臨床整形外科学会からの問題提起により、児童期からの運動器改善を目的に学校運動器検診も義務化されるようになっています。
一方、講習会などに興味をもって来られる方々の大半は、実際に運動器の衰えを如実に感じている70代の方々で、ロコモティブシンドロームの認知となるとどうしても高齢者の方が多いのが現状です。人間ドックに運動器検診を取り入れるところも少しずつ増えているので、40代、50代の壮年期層や若年層への認知度を広げたいと考えています。
また、すでに運動器に何らかの症状を持ち通院されている患者さんも、その前の段階の方も、自身の運動器の機能についてチェックすることで、自身の状態を把握し、運動量についての目標を持つことができるようになります。健康寿命を延伸するためにはこれくらいのことをしないといけないと指摘されて初めて、具体的に運動を生活に取り入れることができるようになるのだと思います。

泉田先生と3次元動作計測システム「鑑AKIRA」

ーーー超高齢社会へ向かう日本の、これから目指すべき姿はなんでしょうか。

ロコモに限らず、高齢社会の到来を見据えていた日本ではかなり早くから予防医療の概念が発達し、その結果健康寿命は74.8歳とシンガポールについで世界第2位となっています。しかし、超高齢社会で我々が目指すべきは、健康寿命だけを伸ばすことではありません。健康寿命が必要条件になりますが、何よりも大切なのは自立して生き甲斐のある生活を送ることができる幸せ「幸福寿命」を増進することです。高齢者になると高血圧、高脂血症、慢性痛などを取り除く薬物療法等にばかり目が行きがちですが、自分の脚でしっかりと歩き、暮らし、幸福寿命を「ピンピンコロリ」で全うする。そのためにも、ロコモ対策には若いうちからしっかりと取り組んでいただきたいです。

ロコモティブシンドロームの概念をさらに深化するため、現在一万人規模の調査による年齢階層別データ分析を進めています。ロコモ チャレンジ!推進協議会の目標は、人々がロコモを予防し、幸福寿命を増進することです。この概念と活動が日本中のみならず世界中に拡がってほしいと思っています。

※健康寿命:健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間 を示す