運動器の機能改善・予防製品と事業展開を
サポートし、地域システムの構築を目指す

事例紹介

ICTを活用したフレイル予防システムの構築

株式会社コロンブス

(1)背景・経緯

コロンブスは、鳥取県米子市にある医療・福祉分野をターゲットとしたシステム開発企業である。親会社にあたるエッグは1927年に同市内で印刷会社として創業し、以来地元の企業の印刷業務などを手掛けてきたが、2000年代になると印刷のデジタル化の波を受けて、ウェブサイト構築やシステム開発に事業転換。現在は全国600以上の自治体への導入実績を有するふるさと納税システムの開発・提供が主要事業となっている。

エッグでは、印刷業の時代から米子市に拠点を置く鳥取大学医学部との関係も深く、事業転換以降も学部のホームページ制作や業務のシステム化などの連携案件が増えてきた。その過程で認知症の早期発見プログラムの共同開発なども手がけ、2017年に医工連携室を立ち上げた。そうした中、医学部の教授からの紹介で出会ったのが、鳥取県出身で東京大学医学部附属病院老年病科に籍を置き、老年医学を専門とする秋下教授である。秋下教授から初めてフレイルについて教わり、認知症に至る前のフレイル予防に社会的な意義とビジネスチャンスを感じたエッグは、新たなフレイルチェックシステムの開発に乗り出し、2020年には医工連携室を独立・分社化してコロンブスを設立した。

以来、コロンブスはICTを活用した製品・システムで健康寿命の延伸に貢献することを企業ミッションとし、フレイル予防対策を軸としたシステム開発・提供を進めてきた。その中核となっているのがフレイル早期発見システム「ASTERⅡ」である。

(2)事業コンセプト

ASTERⅡの入力の様子

高齢化の進展に伴い、介護保険の総費用が年々増加する中で、介護保険制度の財源の一部を負担し、最前線で介護福祉サービス供給の役割を担っている市町村では、高齢者が要介護状態になる前の段階で、いかに介護予防・フレイル対策を進めるかが重要な政策課題となっている。これらの地方自治体に対し、ICTを活用して、地域高齢者の効率的なフレイル状態の把握・管理と効果的な指導介入をサポートし、地域全体の介護費用の低減と健康寿命の延伸に貢献するのがコロンブスのフレイル予防対策システムの事業コンセプトとなっている。

同社のフレイル予防対策システムは、フレイル状態を可視化・判定する「ASTERⅡ」と、関連データを一元管理する「管理システム」で構成されている。「ASTERⅡ」は厚生労働省が作成し、自治体に普及している「基本チェックリスト」を搭載したクラウド型システムとなっている。従来の自治体の介護予防事業では、自ら健康相談に来る人(健康意識が高く介入の必要性が低い層)か、要支援になる直前の人(すでに手遅れ状態の層)にしかアプローチできず、本来的に介入が必要なフレイル・プレフレイルの層が十分に抽出できていなかったが、「ASTERⅡ」ではICT化した基本チェックリストを活用することで、能動的にフレイルのチェックを行い、本当に介入指導が必要な層を早期に発見・抽出することを可能にしている。また、従来紙のアンケートで運用されていたものをシステム化することで、入力やデータ化作業の負担を軽減するとともに、判定結果の即時発行、自動的なデータベース化、複数個所での情報共有といった新たな価値を提供している。

(3)実施方策・活用資源

こうしたコロンブスのフレイル予防対策システム事業の推進を支える方策・資源としては、以下の4つが挙げられる。

① 東京大学医学部附属病院医師の監修によるアルゴリズム開発

ASTERⅡのフレイル判定シート

「ASTERⅡ」では、運動、栄養、口腔、認知等に関する25項目で構成される基本チェックリストの回答情報をもとに、独自のアルゴリズムでフレイルの総合判定を行っているが、これを医学的な見地から支えているのが、東京大学医学部附属病院老年病科の秋下教授、小川准教授によるシステムの監修である。秋下教授は、コロンブスにフレイル事業参入のきっかけを提供してからも、同社と継続的な関係を持ち、同社の事業展開を支えている。

② 鳥取圏域での連携体制の構築・活用

親会社での取り組みの時代から、鳥取大学医学部との連携はコロンブスにおけるフレイル事業展開の重要な支えとなってきた。様々な分野の研究者とのネットワーク形成のほか、プログラムの効果検証や新たなシステム開発においても重要な役割を果たしている。また、人材育成や新たなシーズ探索の面でも、同病院内で実施されている医療機器開発人材育成共学講座に人材を派遣するなど、地域の医工連携ネットワークを存分に活用している。

さらに、地元自治体である米子市との関係も、同社に重要な事業展開の機会を提供してきた。2017年に43歳で市長に就任した伊木市長はフレイル対策に意欲的で、2019年より市内の対象地区で住民約500人が参加するモデル事業を実施して予防効果を上げており、今後市内全域への拡大も検討されている。2021年秋には米子市フレイル予防推進協議会が設立され、福祉団体や高齢者施設などともにコロンブスもそのメンバーに加わって、新たなフレイル予防システムの構築を目指した取り組みが進められようとている。地元自治体とのこうした良好な連携関係は、フレイル事業の知見や信頼性を高める上で、重要な役割を果たしている。

③ 親会社のシステム開発部やネットワークの有効活用

システム開発の面では、ふるさと納税システムを始めとするさまざまなシステム開発の経験を持つ親会社の開発部の力を有効活用している。コロンブス自身は自治体への営業活動・コンサルティング等に専念することで、限られた人的資源の中で、相対的に幅広い事業展開を可能にしている。また、全国600以上の自治体への納入実績を持っているという安心感や自治体とのネットワークも、今後全国に事業を広げていく上で貴重な資源になると考えられる。

④ 自治体の導入・運用のしやすさにこだわったシステム構成

ASTERⅡの入力画面

コロンブスがフレイル判定に用いている基本チェックリストは、2006年度の市町村による地域支援事業(要支援・要介護になる恐れのある高齢者に対して行う介護予防サービスの提供事業)の開始に伴い、虚弱状態にある65歳以上の高齢者を把握するために厚生労働省から提示されたツールである。以降、全国の自治体で導入・活用が進んでおり、自治体にとっては長年蓄積してきた運用ノウハウとリンクさせやすい。同社によると、こうした基本チェックリストのシステム化は他社では行われておらず、同社の優位性の一つとして認識されている。

加えて、回答漏れを防止する設計や高齢者に配慮したインターフェイス、運動教室等での介入指導データや健診データ等を含めたフレイル予防に関わる各種データの一元管理・分析が可能な管理システムの提供なども、ユーザーである自治体の導入・運用のしやすさをもたらしていると言える。

 

(5)収益確保のポイント・目標

事業の収益確保に向けては、ユーザーである自治体の予算動向や、それに影響を与える国の介護予防関連施策への対応が重要なポイントとなる。現在、介護予防の効果的な実施に向けて厚生労働省が進めているのが、「高齢者の保健事業と介護予防の一体的な実施」である。これは、後期高齢者の医療保険者である後期高齢者医療広域連合と市町村が協力して後期高齢者の健康維持・フレイル予防に取り組む新たな仕組みで、市町村を中心に地域の関係者が連携体制をつくり、高齢者の特性に合った保健事業の実施が求められている。当面は、こうした大きな動きに合わせて、事業の足場を固めることが収益面での課題となっている。

コロンブスでは、これまでの取り組みを足掛かりに、PDCAサイクルに基づいた効果的な介護予防を推進することができるフレイルの総合システム企業への発展を目指している。継続的な収益確保に向けて、BtoCビジネスへの展開、介入指導のICT化、他業種との連携など、ビジネスモデルの強化を図っていく意向である。